組織のカタチとメカニズムを捉え直す
企業にはどのような組織形態があるのでしょうか?自分が所属する企業はなぜその組織形態をとっているのでしょうか?わかりそうでわかりにくい組織形態とその理由を整理してみましょう。
代表的な4つの組織形態
まず、組織形態はどのように分類できるのか、4つの代表的な組織形態を紹介します。自分が所属する企業がどの組織形態をとっているのか確認してみましょう。
単純組織
一つ目の組織形態は「単純組織」です。傑作名画「男はつらいよ」のとらやで例えてみます。(説明のための登場人物の脚色はご了承ください)
祖父が会長でおいちゃんが社長、おばちゃんが経理で甥っ子が役員。姪っ子とその旦那が社員でだんごの企画と製造と販売とすべて葛飾区柴又のお店でおこないます。だんごを作ってだんごを売るという事業内容がシンプルなため、会長から社員までだんごにまつわるあれこれを兼務してとらやを回しています。
会社の理念と戦術を紐解くと、こういう感じではないでしょうか。
組織文化: 笑いあり涙あり、いつでも帰って来られる心の拠り所
活動戦術: みたらしだんごの匂いでお客さまを誘い、ふらっと入りやすい間口はいつも清潔
経営理念から活動戦術まで単純明快で、働く人はすべて身内で人柄もお互いよくわかっています。小難しいルールや複雑なシステムは不要で、認識の違いやセクショナリズムは起きようがなく、コミュニケーションは潤滑です。たまに甥っ子のとらが大胆な行動をしますが、それもとらやの単調な毎日にかけるスパイスなようなもので、組織文化が深まるエピソードになっています。
だんご屋以外では、ベンチャー企業の立ち上げ期はこの形態が多く、ゼロからのモノ作りに合っています。
機能別組織
二つ目の組織形態は機能別組織です。日本企業の56%が機能別組織で大半を占めています。
ここでは山梨県勝沼にある1942年創業の原茂ワインを例にとってみます。
勝沼は甲府盆地にあり笹子峠からの山風「笹子おろし」が昼夜の寒暖差を作り、年間の降水量は1000mmと少なく気候に恵まれ水はけも良い場所です。そのため、明治時代からぶどう栽培とワイナリーが盛んで、今では日本の白ワインの40%を占めるほどです。
原茂ワインは小さい会社ながらも、ぶどう栽培からレストラン経営まで手がけ、以下4つの機能を部門別で運営しています。
- 生産部門
勝沼の5.5ヘクタールの畑でシャルドネ、メルロ、アルモノワールなどのぶどう品種を栽培する - 製造部門
ぶどうをフレンチオークの樽で熟成させ、和梨のような果実香にトーストのような香ばしさが調和した白ワインを造る - 販売部門
自慢のワインをワイナリーの1階で販売し、全国各地や世界へ出荷する - カフェ部門
ワイナリーの2階でカフェ カーサ・ダ・ノーマ を営業する
単純組織のとらやに比べると大量に効率よく事業をおこなうために水平の機能分化をしています。
私の想像上の原茂ワインの理念と戦略は、以下のあたりでしょうか。
経営戦略: 地元のワイン生産者と共に甲州ワインを世界で認められるワインへ広める
活動戦術: 世界各地の品評会で高評価を得て世界展開を広げる
組織規模は大きくなくとも、それぞれの部門が特定の機能を担いつつ、ワイナリー全体としては栽培から提供まで価値をつなげています。
機能をわけるとそれぞれの専門性が発揮され仕事の効率は上がり規模の経済と経験曲線効果が出ます。一方で、部門内の独自色が強まり部門ごとの組織目標や必要人材とスキル、さらには組織文化に違いが現れてきます。会社全体としては、社長や経営層が組織全体を見渡しやすく、権限も中央集権的になり俊敏性が発揮しやすい組織形態です。
事業部制組織
三つ目の組織形態は事業部制組織です。日本企業の41%が事業部制を敷いており、機能別組織の次に多い形態です。
ここではとらやと原茂ワインとさらにレストラン事業をミックスし、ビジネスを多角化した仮想の組織で考えてみます。
機能別組織と事業部制組織の最大の違いは、機能別組織が機能=部門を横断して売上が上がるのに対して、事業部制組織は事業部ごとに独立採算制になっている点です。形としては一事業部の中に機能別組織がすっぽり入った状態です。だんご事業部では、「研究開発から生産 製造 マーケ 営業 サービス」まですべて事業部内で完結し、ワイン事業もレストラン事業も同様です。
この企業では、商品別の事業部制がとられており、その事業部内では機能別組織が存在し、単独の事業部として研究からサービス提供まで完結させています。
「こんな事業の組合せをしている会社はないだろう?」と思うかもしれませんが、こういう事業部制を実践する会社が実在するのです。みなさんもよく知るシャトレーゼという会社です。勝沼の地にワイナリーを2つ持ち、老舗和菓子の「亀屋万年堂」も抱え、各地にレストラン・ホテル事業を展開しています。
シャトレーゼ社是を見てみましょう。
一、お客さまに喜ばれる経営
一、お取引先に喜ばれる経営
一、社員に喜ばれる経営
機能別組織で運営していた企業がM&Aや新規事業分野への進出をして、多角化を進める場合にこの組織形態へ転換することが多くあります。
マトリクス組織
四つめの組織形態はマトリクス組織です。事業部制の形を取りつつ、事業横断の人材育成や評価制度を組み合わせます。元々マトリクス組織は、1960年代にNASA(米国航空宇宙局)のアポロ計画で、機能別組織を横断して複数のプロジェクトとプロジェクトマネージャーが配置されたのが始まりと言われ、日本ではトヨタや花王が取り入れたことで有名です。
マトリクス組織の特徴は、縦の事業部制における収益と研究を深める一方で、同時に横では人の育成と評価を事業横断で進めるという、縦と横の行列=マトリクス状になっています。 事業部制で運営していた企業が、グローバル展開や事業の多角化をして、「職能 × 事業」 や 「地域 × 製品」 など、性質の異なる組み合わせでマトリクス組織化することが多いようです。
組織形態の比較
組織形態の特徴を一覧でまとめるとこうなります。
組織形態の傾向分析
以上4つの組織形態は、日本国内でどのような割合なのでしょうか?
少し古いデータですが、経産省が2007年におこなった全国2万社の企業の組織形態分析の結果では、機能別が56% 事業部制が41% カンパニー制は3%です。業界別に見ても割合の差はほとんどありません。
※カンパニー制は事業部制組織をさらに独立採算主義を強くしたもので事業が多角化している大企業に見られます。
時代変遷と組織形態の関係
企業は時代の変化に合わせて、前述の4つの組織形態を都度進化させてきました。1940年代から2020年代までを見てみましょう。
◆ 戦後復興期(1945年~50年代)
戦後は、生産再開の遅れた大企業を尻目に、中小企業が単純組織の俊敏性を発揮し、生活必需品を中心にゼロからのモノ作りを盛り上げました。
◆ 高度成長期(1960年~70年代)
1955年から1973年は18年間連続で平均10%以上の経済成長を達成。各企業は大量生産に合わせて機能別組織に転換し、産業としては製造業や建設業などの工業が大きく発展しました。
◆ 多角化時代(1980年~90年代)
高度成長期を経て安定成長に移り変わり、企業は事業拡大に合わせた事業部制に転換していきました。工業に加えてサービス業が拡大し、株式や不動産が高騰したバブル経済(1986年〜1992年頃)もこの時代に重なります。この時代の後半はM&Aなどで多角化する企業が増え、事業部制組織の裁量権をさらに拡大させたカンパニー制の組織形態をとる企業も出てきました。
◆ グローバル時代(2000年~10年代)
冷戦が終わり世界のほぼすべての国が資本主義経済になり、世界経済が一体化=グローバル化が進展しました。従来の企業は、国ごとの経済面の違いから現地法人を独立した形で運営していました。しかしグローバル化の流れにより国を跨いで効率よく事業運営をするためにマトリクス組織に変わっていきました。ただし、すべてのグローバル企業がマトリクス組織をとっていることはなく、花王やP&Gなど一部の大企業に採用されている組織形態です。
◆ 持続可能社会(2020年~)
2015年の国連サミットでSDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)が採択され、企業にとっての影響は利潤追及のKPIからより広範囲で難題に対しても積極的に取り組む姿勢が求められるようになりました。また外部環境の不確実性が高まるなかで、中長期の見通しや中央集権的な意思決定スタイルが通用しなくなってきています。このような新たな変化を受け、最近では自律分散型の組織(ティール組織やホラクラシーと呼ばれる)に関心が高まっています。
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執筆者
栗木 楽(くりき らく)
株式会社ドリーム・アーツ 協創パートナー推進本部 副本部長
大企業コミュニケーションのReデザインを得意とし、数万人の企業のコミュニケーション改革プロジェクトの推進役を多数経験。お客さまプロジェクトではさまざまな部門からの多彩なメンバーと一緒に、部門間・階層間のタコツボ化解消に真正面から取り組んでいる。日本企業の底力を上げるために、実践知を活かして組織開発とITの融合でアプローチする。